トップメッセージ

木とともに歩んできた総合木質建材メーカーとして、人と自然の循環、共生の輪をさらに広げること。それこそが当社の存在意義です。

株式会社ウッドワン 代表取締役社長
中本祐昌

ウッドワンは、山林経営から木材加工までの一貫生産体制により、バリューチェーン全体を通して、さまざまな価値を提供しています。木とともに歩んできた総合木質建材メーカーとして、新たな木の文化の創造と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

気候変動への根本的なアプローチ

現在、起きている気候変動は、6,000万年にわたって地中に蓄積された炭素を人間が短期間で大気中に放出していることに起因していると言われています。石炭紀と呼ばれる時代、植物が獲得した炭素は木材腐朽菌などが存在しなかったため、分解されず、長期間にわたって地中に蓄積されました。石炭や石油はこの時代の遺産なのです。人類がこれらの化石燃料を燃焼させることで、長い年月をかけて固定されていた炭素が一気に大気中に放出されているのが現状です。解決策は、植物を再び地中に戻すか、新たに植物を育てることで炭素を固定することですが、現在のペースでは追いつかないでしょう。過去1万年の歴史の中でも、この100年間の環境に対する人間の影響度は桁違いに大きくなっています。カーボンニュートラルは世界的な課題であり、企業レベルでの対応が求められています。当社は総合木質建材メーカーとして、山林経営から木材加工までを一貫して手掛け、事業を通じて気候変動への対応を積極的に行っています。

2024年度の振り返り −社会的評価と展望−

2025年2月には、環境省が主催する第6回「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の「循環経済/サーキュラーエコノミー賞」を受賞しました。ニュージーランドの自社林での持続可能な森林経営に始まる原料調達から最終製品に至るまで、一貫した温室効果ガスの吸収・固定と、自社バイオマス発電事業などによる温室効果ガス削減の取り組みが評価されてのことです。賞へのエントリーを主導した広報が頑張ってくれました。
また、2024年9月には「Mizuhoポジティブ・インパクトファイナンスPRO」を活用した資金調達を行いました。みずほ銀行が融資先のESGの取り組みを包括的に評価するもので、当社の活動が「ポジティブ・インパクトの創出及びネガティブ・インパクトの抑制が認められる」と評価されました。

当社のサステナビリティ経営が注目され、社会的評価を受けたことはうれしいことであり、誇らしい気持ちです。ただ私たちにとっては以前から継続してきたことですし、これからもこのスタイルを変えることなく巡航速度で続けてまいります。より多くの方に当社商品を使っていただくことで、これまで進めてきた人と自然の循環、共生の輪をさらに広げていきたいと思います。それこそが当社の存在意義です。

木材利用促進の現状と課題

2024年度は構造材LVL「JWOOD工法」の出荷棟数が、1994年の販売開始から累計50,000棟を突破しました。高い耐震性や耐久性を実現する構造材として評価いただいた結果だと思っています。「JWOOD工法」は非住宅の構造材としても注目されています。鉄骨やコンクリートと比べて木造は自重が軽く、縦の干渉に強いので6〜7階建てまでの中高層建築に適しています。柱の少ない大空間を確保できることから商業施設などさまざまな用途に活用されており、今後も大都市周辺地域を中心に需要があると見ています。
2025年4月に施行された改正建築物省エネ法・建築基準法では、建築分野の省エネ対策と木材利用促進が推進されています。木材は成長過程でCO₂を吸収し、建築や内装に使用されている間はその炭素を固定し続けます。補助金制度もあり木材利用が進んでいますが、鉄骨やコンクリートを組み合わせたハイブリッド構造や、化粧材としての利用にとどまるものが多く、本格的な木材活用とは言い難い状況です。
真の木材利用促進のためには、業界や社会全体での木材に関する知識向上と活用方法の検討が必要だと認識しています。
新素材として注目されてきたLVL(単板積層材)を当社では45年前から製造しており、長年蓄積してきた木材加工技術は当社の優位性だと言えます。木造建築への回帰は進んでおり、人口減少下においても木造建築の需要は増加すると見込んでいます。
また、省エネ基準への適合が義務化されたことで、今後は住宅の性能面での差別化が難しくなります。これまでハウスメーカーや大手ビルダーは住宅性能の優位性を訴求してきましたが、これからは内装の美しさ、居住空間の居心地の良さなどが重要な差別化の要素になるでしょう。それは「無垢材を使った豊かな生活空間の提供」という当社の強みを活かす絶好の機会になります。

高品質な無垢材の価値向上

米価の高騰が社会問題になりましたが、物価高騰は当社の事業にも影響を及ぼしています。木を育て伐採するまでには地面をならし、木を植え、枝打ちや下刈りなど手間と時間をかけ、伐採後は製材・加工してお客様へお届けする。このすべての工程でコストが上がっています。一方で過去の木材相場に引きずられて植林木の価値が十分に価格に反映されていないという課題があります。そこで、高品質な植林木の価値を認めていただけるような商品を作りました。
2025年4月には、国産材の無垢フローリング「コンビット®ソリッドJ 」を発売しました。節の部分を補修して耐久性や安全性を高め、無節、上小節、節ありという3つのグレードを用意しました。
昨年2024年に発売した「WO Timeless standard collection 」は、プロダクトデザイナー 深澤直人さんのディレクションで、30年かけて育んできたニュージーランドの木材を上質で時代に左右されない商品に仕上げました。幅30cmの一枚単板を使った床材をはじめ、ドアなどの建材、テーブルやシェルフなどの家具は、時間とともに味わい深く変化していくことが魅力です。

省施工からメンテナンスまでを総合的に考える

建設現場では、職人不足が深刻になっています。当社の省施工化の取り組みは、職人不足という社会課題への対応であると同時に、環境負荷軽減にも貢献しています。
当社の省施工商品は、例えるならば江戸前寿司です。寿司職人は入念に「仕事」をして、お客さんの前で寿司を握り、煮切りをひと塗りして提供します。同じように省施工商品は、現場に届いた時点ですぐに使用でき、残材が発生しないこともメリットです。従来の方式では、現場で加工する際に端材が発生し、その処分にも手間とコストがかかっていました。そのコストやCO₂排出量の削減にも寄与するものです。
リフォーム用商品にも力を入れてきました。ライフスタイルに合わせてリフォームをして、愛着のある住まいを長く使いたいという人が増えてきています。アメリカの住宅では昔から床材に無垢材が使われてきました。15~20年の周期で表面をサンダーで削り、塗装し直すことで長期間美観を保つことができます。
一方、日本の一般的な住宅では、床材には合板に薄い単板を貼ったものが使われていることが多く、リフォームの際には張り替えるしかありません。初期投資は多少かかりますが、床を無垢材にすることで長く使い続けることができ、結果的には将来のコスト負担や環境負担を大幅に減らすことができます。
今後は、メンテナンスのしやすさも提案していきたいと思っています。省施工、メンテナンスまでを含めて、商品としての完成形が作れると考えています。

メンテナンス文化の復活

古くから日本建築は、実はメンテナンスによって文化と伝統技術を継承してきました。 法隆寺は、1993年にユネスコの世界遺産に登録されましたが、当時、世界遺産登録にあたっては、ヨーロッパのレンガや石造の建築とは異なり、日本の木造建築はメンテナンスしながら使っていくことが前提であるという点について「過去の登録基準に適合しないのではないか」という意見があったと聞いています。
法隆寺には木材の中でも耐久性の高い桧が使われていますが、それでも北側や地面に近い部分は新しい木を接ぎ足し、1,300年もの間メンテナンスをしながら建物全体を維持してきた歴史があります。1960年代にアルミサッシが普及して以降、日本の住宅ではメンテナンスの概念がすっかり薄れてしまいましたが、かつては柱に木を接ぎ足し、汚れた床にはカンナを掛け、建具を整えて障子を張り替えたり、住宅の維持管理は日常的な作業でした。そうした定期的な手入れによって100年保つと言われたのが木造住宅の本来の姿なのです。このようなメンテナンスへの理解を広めることが、これからの木材利用促進の鍵になると思います。

地域材活用と循環型林業の構築

先にお話しした「コンビット®ソリッドJ 」は、2024年4月に操業を開始した株式会社フォレストワン庄原工場で製材・加工した国産の桧を使っています。当社グループでは、自治体や地域の林業関係者と連携し、広島県庄原市で地域材を活用した循環型林業の構築にも取り組んでいます。当社は庄原に山林を所有していませんが、伐採した木の加工、流通など安定した活用をすることで地域の循環型林業に貢献していきます。
フォレストワン庄原工場では地域の小学校の工場見学を受け入れています。環境学習をしてきた子どもたちが親世代になり、またその子どもたちが木について学び、身近に感じてくれることで、木の文化のDNAが受け継がれていくことを願っての活動です。

学びの機会とチャレンジする行動力を育む

事業の成長や企業価値向上の原動力となるのが人材です。2023年4月に人事制度を改正し、時短勤務や育児休業制度の拡充、復職支援制度の導入など、女性や若手、シニアが働きやすい環境の整備を進めました。
本社や広島ショールームがある広島県廿日市市は10年間連続で人口が転入超過しているそうです。住みやすさや子育て環境の良さが要因ではないかと思いますが、当社も微力ながらその要因に貢献できているのではないかと自負しています。
社名に“ウッド”を冠する企業として、従業員は木材について学びと理解をさらに深めていってほしいし、これは経営者としての私の大切な役割でもあります。人材育成において重要なのは、新しいことにチャレンジする機会を提供することだと考えています。新商品開発や新事業創出など、責任ある立場で主体的に行動する経験が人を育てます。このような機会を創出し、従業員が自ら考え、チャレンジする行動力をもつことで、会社も発展していきます。

ステークホルダーへのメッセージ

林業では昔から「遠目と近目で見る」ことの大切さが言われてきました。当社のニュージーランドでの植林事業では約30年、日本の一般的な植林事業では60年という長いサイクルで事業を行っており、短期的な収益性と長期的な持続可能性のバランスをとっていくことが重要と常々考えています。ステークホルダーの皆様にもぜひ長期的な視点でお付き合いいただければ幸甚です。