
2025 最優秀賞(伊東豊雄賞)
2025年度
長野県
『姨捨の家』
姨捨(おばすて)地域の「棚田と月」が生み出す情景は古くから愛され、多くの和歌・俳句が残されている。建て主はこの歴史ある美しい景観と共に暮らしたいとこの地を選んだ。建物は長方形を2か所折り曲げた平面形状とし、棚田の地形を壊さないよう配置した。眼下にある月の名所長楽寺「月見堂」と同じ方角を向いた月見台を設け、古人が愛でた情景を楽しめるよう考えた。 建物中心には用途を持たない「間(ま)」を挿入した。天窓から太陽光や月光を、大きな開口部から風を取り込む。間(ま)に面して設置した間仕切戸の開閉により、生活シーンに合わせて隣接する居室をつないだり独立させたりすることができる。居室は壁主体の空間とし環境負荷を抑えプライバシーを保ちながら、間(ま)に取り込まれた光や風を供給できる仕組みとしている。生活スタイルや気候の変化に対し、衣服を着脱するように空間の広さや温熱環境をチューニングできる環境装置でもある。