無垢屋さんのお勉強ノート

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ケガもしながら、大きくなりました。
入り皮

木と言えば、ナチュラルで穏やかなイメージばかりが浮かびますが、その木が育つ森の中は文字通り、サバイバルの世界。森の動物や鳥につつかれ、時折おとずれる台風に耐えながらも、隣の木の枝とぶつかり合ったり…。そんな大自然のなかで生きていくあいだに、木の表面をおおう樹皮が大きく傷ついてしまうこともあります。
表面の傷の怖いところは、樹皮のすぐ下を通る「形成層(※)」という組織にも傷がついてしまうこと。木が太く育つためにとても重要な役目をもつ形成層へのダメージは、木の成長にとって深刻な影響をおよぼしかねません。
そこで木は、傷害部のまわりの組織の成長を促して、その傷を包み込むようにはたらきかけます。病原菌など外部からのダメージを最小限に抑えつつ、体内で傷を癒着し途切れていた形成層をつなげ直すことで、再び木は成長を続けていきます。この時、木の中にとりこまれた樹皮の断片が、「入り皮」と呼ばれる筋状(あるいは楕円形)の模様です。
子どもたちがケガをしてカサブタを作りながらも、たくましく成長していくように、木も厳しい自然界のなかでケガをしながら大きくなって、私たちのもとへやって来るのですね。

※形成層…春から秋にかけて細胞分裂を行い、幹を太らせる肥大成長をおこなう組織。

小さなホクロ、大きなホクロ、いろいろ。

空に向かっていっぱいに伸びる木の枝。葉のついた枝先はよく見ていても、枝の根元を意識することは、あまりありませんよね。でも実は、身の回りにある木の床や木製品の模様の中に、よく見かけているものなのです。
木の枝は、成長の中で自然に枯れ落ちることもあれば、台風や倒木で折れたり、人為的に落とされることもあります。幹に残った根元の部分は、木の肥大成長(※)とともにまわりの細胞に埋もれて幹の中に取り込まれていき、やがて「節」と呼ばれる円形の跡となります。枝は木に必ずついているもの。人でいえば、ホクロのようなものです。
節の大きさは、落とされる前の枝の太さに左右され、数cmにもおよぶものや、直径1~2㎜ ほどの「葉節」と呼ばれる小さなものなどさまざま。また、枝が枯れてから幹に取り込まれた場合は、枝の根元がまわりの細胞とくっついていない「死節」となり、板に加工するとその部分がすっぽり抜けてしまいます(抜け節)。
では、節の少ない木材をつくりたい時は、どうすればよいでしょうか。それは、幹が若く枝が細いうちに余分な枝を落とす「枝打ち」をおこなうことです。枝打ちした若い幹のさかんな肥大成長によって、節は木の中心側(あまり使われない部分)へ押しやられていくため、木の外側で節の少ない材料をとることができる、というわけです。ニュージーランドに広大な森をもつウッドワンでは、この枝打ちを一本一本手作業でおこない、美しい木目のニュージーパインを丁寧に育てています。

※肥大成長…形成層から細胞が生み出され、幹が横に太っていくこと。対し、縦に伸びていくことは「伸長成長」という。

前から見ても、横から見ても。
節かげ

木目に遊び心をプラスするキャラクターマークの代表格といえば「節」。その丸い模様のまわりをよく見ると、節を避けるように木目が急カーブしていることに気がつきます。じつは、このカーブした木目は、節の一部でありながら、別のキャラクターマークとしての顔ももっているのです。
絵のように丸太を縦に切ったとき、その断面がたまたま節の近くを通っていると、まるで木目を指でこすり筋を描いたような模様があらわれることがあります。これが「節かげ」と呼ばれるもの。何層にもわたって描かれる木目のゆらぎは、節の奥ゆきをそのまま写しとった、いわば節の”横顔”です。
パッと目をひくチャーミングさをもつ、”正面顔”の節。さっぱりとした中にもふいに奥ゆきをのぞかせる、ミステリアスな”横顔”の節かげ。見る方向で印象がまったく変わるふたつの顔は、どちらも魅力的です。

家族の歴史とともに、色をかさねる。
経年美化

新しいものや、いつまでも変わらないうつくしさが良しとされてきた時代を経て、近年は、古いものの良さ、変化するうつくしさも価値のひとつとして受け入れられるようになってきました。木も、「変化するうつくしさ」をもつ材料の代表格。真新しい木造建築のみずみずしい木肌も、年を重ねて深い色味と味わいが増した木肌も、どちらもうつくしいものです。
ウッドワンは、この天然木の特徴でもある経年による色の変化を「経年美化」と呼び、大切にしています。木の細胞に含まれる樹脂(ヤニ)が長い時間をかけて表面に浮き出し、まるで薄いベールを重ねるように変化していく様は、家族の歴史そのもの。使われる木の種類や厚み、置かれる環境によっても変化はさまざまです。
5年後、10年後の「わが家だけの色」は、どんな色になっているかな。そのころには、家族はどう変わっているのかな。そんなふうに家族のこれからを想うのも、無垢の木ならではの楽しみ方ですね。

色とりどりが、楽しいね。
濃淡 / 赤白(源平)

季節とともにうつろう街路樹の色。お庭を彩るあざやかな花。慌ただしい生活のなかで、ふいに自然物の色を見つけると、気分が華やいだり、心が癒されたりしますよね。じっくり観察すると、葉の一枚一枚、花びらのひとつひとつが、ほんの少しずつ違う色をしていることが分かります。色にゆらぎがあること、これが「自然由来のもの」と「人が作ったモノ」との大きな違いのひとつです。
色に限らず、人は、適度な『ゆらぎ』に心地よさをおぼえる生き物であると言われています。もし、森の木々が、ペンキで塗ったようにまったく同じ色をしていたら、単調すぎてなんだか落ち着かない気分になりそうです。自然界に存在する色、におい、音などのあらゆる『ゆらぎ』が、私たちに癒やしを与えてくれるんですね。

自然界のなかでも、木は『ゆらぎ』をもたらす代表格のひとつ。木の色ひとつとっても、淡い色をしていたり、赤みがかっていたり、その色合いはさまざまです。同じ山で育った同じ樹種であっても、日当たりや場所の傾斜などが違うだけで、ことなる色の木が生まれます。
たとえば、写真①の床板のように、ピースごとに色がことなるパターンを「濃淡」と呼びます。そのコントラストは、かつて森にならび立っていた木々の、多様な色合いをそのまま写しとったよう。まさに自然の『ゆらぎ』そのものです。
また、写真②の床板のように、1枚のなかで色の薄い部分と濃い部分がとなり合っているパターンは「赤白(源平)」と呼ばれます。一般的に木の色は、丸太の外周側は白っぽく(辺材または白太)、芯側が赤っぽい色(心材または赤身)をしており、それぞれ材質も異なります。用途や丸太の太さを考慮しながら、片方だけ切り分けたり、辺材と心材が混ざった板を取ったりすることで、1本の丸太をムダなく使うことができるのです。

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木々の葉ずれの音、川のせせらぎ、炎のゆらめき、はては電車の揺れやクラシック音楽の響きにいたるまで、私たちのまわりにはあらゆる『ゆらぎ』が存在しています。これらを頭の中で想像するだけで、なんだか眠くなってくるような、そんな心地よさをおぼえますね。
ゆらぎは、空気を伝わる波や振動パターンとして計測されます。自然物をはじめとしたヒトが心地よさを感じる物には、共通のゆらぎパターン(1/f型)があることが分かっており、リラクゼーションを生む「1/fゆらぎ」として注目を集めています。
そして、私たちヒトの心拍も、じつは1/fゆらぎのひとつ。自然の中で私たちがリラックスできるのは、おなじ『ゆらぎ』をもつ者同士だからかもしれません。

自然のなかで、生き抜く。
樹脂跡(ヤニスジ / ガムポケット)

木は動くことも、逃げることもできない生き物。ちょっとした傷口でも虫や病原菌に侵入されてしまうと、からだ全体へのダメージにつながりかねません。そんなとき、木は傷口から樹脂(ヤニ)という成分を分泌し、固めて覆うことで外敵の侵入を防いでいます。平時から常に樹脂の通り道(樹脂道)を備えている樹種もあれば、傷を受けたり菌が侵入した時に、臨時の樹脂道(障害樹脂道)をつくり外敵に対抗するものもあります。樹脂という衛兵を配備しながら外敵とたたかう、まさに樹木がひとつの防衛システムになっているわけです。
そして、そのたたかいの痕跡ともいえるのが、木の細胞のスキマに樹脂が堆積して固まった「樹脂跡(ヤニスジ)」。点や筋状の黄褐色~黒褐色の樹脂跡は広い範囲にあらわれる場合もあり、敬遠されがちな木肌ではありますが、数々のたたかいを乗り越えてきた証でもあります。
マツの仲間はとにかく樹脂が豊富なことで知られていて、ヤニスジのほか、木材内部の空洞にヤニが溜まった「ヤニツボ」も見られます。これは強風による樹幹のたわみ等で形成層が部分的に損傷し、細胞間に広めの空洞ができてしまうことが原因と考えられています。木材内部に液状のヤニが多いままだと、表面にしみ出して材面を汚してしまうので、あらかじめ高温で乾燥しヤニを硬化させてから、製品に加工することがポイントです。
また、銘木の一種として人気の高いブラックチェリーも、樹脂跡がよく見られる樹種のひとつ。こちらの樹脂跡は一般的に「ガムポケット」の名称で知られていて、黒褐色の筋状にあらわれるのが特徴です。

見えないものから、見える景色がある。
カナスジ

公園の樹木や街路樹の根元をあらためて観察すると、根っこに意外と太さがあり、横へ広く伸びていることに驚くかもしれません。普段はあまり意識されない根ですが、地上の幹や枝が健全に生きるため、見えないところで体を張って頑張っているのです。
根は、樹幹を支える太い「粗根」と、粗根からこまかく分岐し、水分や養分を吸い上げる「細根」から構成されています。細根で取りこまれるものは、水と窒素のほかに、カリウム、リン、マグネシウム、鉄などの無機物質(ミネラル分)ですが、このうち無機物質の一部が木の細胞中に堆積して固まることがあります。これが「カナスジ」と呼ばれる、暗緑色~暗褐色の筋状痕です。年輪に沿って長く走るようなカナスジが見られることもありますが、根から上がった養分が幹を通って送られていく様子を想像すると、それも納得ですね。
カナスジは、その木を育んだ森の土壌が豊かであるあかし。目には見えないものが生んだひとつの模様が、故郷の森の景色を私たちに見せてくれるようです。

しなやかに、躍動するかがやき。
虎斑(とらふ)

床材や家具などで人気のオーク材。力強くも気品ある木目が特徴ですが、その中にときおり、色の抜けたまだら模様が見られることがあります。『もしかして塗装ミス?』…とも勘違いされがちですが、これは天然オーク本来の模様。虎の毛並みのような見た目から、「虎斑」と呼ばれるこの模様は、オークがもつ構造的な特徴によるものです。
一般的に、木には「放射組織(放射柔細胞)」と呼ばれる、木の成長に必要な栄養分を貯蔵する組織があります。丸太の断面で見ると、年輪を横切るように、木の中心付近から樹皮側に向けて放射方向に多く散在しています。そのため、ケーキを切るように丸太を割る”柾目”の板には、放射組織の縦断面がほぼ必ずあらわれることになります。
この放射組織の断面が、虎斑の正体。オークやナラなどの樹種は、放射組織の幅が数ミリ~十数ミリ前後と非常に幅広いのが特徴で、目視でもはっきりと見ることができます。ほかの樹種では、放射組織が小さく目立たないだけなのです。
虎斑は、別名「シルバーグレイン」とも呼ばれます。これは、放射組織は横方向、まわりの木繊維は縦方向と繊維の向きが異なるため、光が当たったときの反射の仕方が変わり、虎斑の部分が銀白色に輝いて見えることが由来です。また、繊維方向の違いは、見え方だけでなく塗料の乗り具合にも影響しています。オークは塗料乗りの良い木材ですが、繊維方向が異なる虎斑では、均一に塗装をしても色が抜けたように見えるのです。
柾目板のすました表情のなかにハズシをきかせるダイナミックな柄は、世界でも古くから高級家具などに珍重されてきた、まさに孤高の虎のような紋様。オーク材の雰囲気を、より洗練されたものへ格上げしてくれます。

甘党なところ、よく似てるね。
シュガースポット

ホットケーキには欠かせない、やさしい甘さがうれしいメープルシロップ。その原料は、厳しい冬の寒さを乗りこえたメープルの木でつくられます。
メープルのような落葉広葉樹は冬のあいだ、寒さに耐えるためにほぼ休眠状態となります。根からの吸水を一時的にストップし、体内の糖分濃度を上げることで凍結をしのぐためです。寒さがやわらぐ頃、ようやく吸水が再開され、蓄えた糖分は水にとけ出し樹液となります。初春の寒さがのこる森のなか、樹皮に穴をあけて採取する樹液は、”メープルウォーター”と呼ばれるとおり透明でサラサラ。これを高温でじっくり煮つめれば、おなじみ琥珀色のメープルシロップのできあがりです。
そんなあまい樹液の豊富なメープルの木。その板材にはときに、樹液が木の細胞ににじんだ跡や、点や筋状に残った跡がみられることもあります。「シュガースポット」と呼ばれるこれらは、同じく樹液からつくられるメープルシロップとは、いわば兄弟。食卓で運命の再会ができる日も、近いかもしれません。

個性ひかる編み目に、思いをはせる。
交錯木理

木は、空に向かってまっすぐに成長していきます。…というのは間違いではありませんが、それぞれの木をじっくり見ると、ななめ方向に伸びているものや、幹はまっすぐに見えるのに表面の樹皮だけがねじれているものなど、じつは樹種によってさまざまです。その違いの理由のひとつに、「木理(もくり)」というものがあります。編み物でいう編み目のようなもので、木が成長する中で自然と形成されていく、縦方向の木繊維の並び方のことです。
木理にはいくつか種類があり、たとえば、幹の方向にそって繊維もまっすぐに並んでいるものは「通直木理」、幹に対して繊維がねじれて走っているものは「らせん木理」といったりしますが、なかでも面白いのが「交錯木理」。幹に対して繊維が右ななめかと思えば、次は左ななめ、再び右ななめ…と、数年輪ごとに繊維の方向が変わるという一風変わった木理をしています。
この交錯木理の木を、ケーキカットのように柾目で切ってみると、繊維方向の違いによって色の濃淡があらわれます。ビロード布の毛を逆立てると色が変わって見えるように、繊維への光の当たり方が異なることで濃淡がついて見えるのです。とくに、色の濃淡が行儀よく並んだしましま模様は「リボンもく」とも呼ばれ、高級家具や楽器などに好んで使われます。
一見すると塗装ムラのようにも見え、使うひとを選んでしまうこともしばしば。ですが、手編みの品につくったひとのクセが見えるとなんだか微笑ましくなるように、木の繊維がつくりだす天然の編み模様も、きっと愛でてもらえるはずです。

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