vol.02
JOURNAL
vol.02
DIRECTOR
INTERVIEW
NAOTO FUKASAWA

「なにもないけれど、全部ある」
豊かさを体現する空間

「なにもないけれど、全部ある」
豊かさを体現する空間

WOの建材は床材から始まり、ドアや本棚、
テーブルセットなどへ広がっています。
深澤直人さんが考える「豊かな空間」とは何か、
またミニマルな暮らしに近づくヒントを伺いました。

WOのプロジェクトは床材から始まりましたが、それに伴ってドアや本棚もつくりました。一般的にドアには「ドア枠」という部品がありますが、今回はあえてそれを見せず、まるでドアだけが立っているように見せています。壁に一体化させているんですね。かつて漆喰塗りの時代は割れが出やすく、工事する側もこの工法を嫌がりました。でも近年は壁紙をきれいに巻き込めば、白い壁にすっとドアが立つような空間がつくれます。とてもミニマルな手法です。「シンプルな空間」と感じる場所には、そうしたディテールが随所にあります。ヒンジも見えないように設計していますし、ハンドルも少し改良しました。アルミニウムの無垢の美しさを生かし、木の質感に合わせています。色はサンドベージュという、茶味がかったベージュです。パイン材の白いバージンの色味は、僕にとって日本の色の基本だと感じています。

同じ木材で空間を全部埋めたいという気持ちがあったので、本棚もデザインしました。この床を選んだら、縦の壁面をどうするかをみんな考えるでしょう。そこに違う素材が来ると、ほとんど合うものがない。だから同じ材料でなくてはいけないんです。床面も立面も同じ素材でデザインできるのは、ある種の贅沢です。よりミニマルな空間になります。ショールームのように完全にシンプルな部屋は現実には少ないけれど、静かなパワーが生まれる。最近はグリッド状の棚に本をたくさん入れて、書斎のようなインテリアが流行っています。でも本来「棚」は本棚とイコールではないはずです。日本人にとって棚のイメージは「本棚」なんですよね。一方ヨーロッパでは、本だけでなく、あらゆるものを飾るプラットフォームとして扱っています。何も置いていない余白があってもきれいです。この棚も耐荷重がしっかりあるので、本をみっちり置いても大丈夫です。

建材全体が同じように「経年美化」していかなければならない、と考えています。日本人は「経年変化を楽しむ」という感覚を頭では理解していても、どこかで常に新しくてクリーンで、変化しないことに価値を感じてしまう部分がある。実際、近年使われる多くの素材は生活のなかで美しい経年変化を生みませんでした。汚れてしまうだけで、良くはならない。でも本物の素材は、たとえ欠けたとしても味になってくる。劣化ではありません。

豊かな暮らしと言われたとき、「マイクロコンシダレーション」や「マイクロケア」という言葉が頭に浮かびます。生活とは、ケアして美化していくものだと思う。もちろん無頓着にただ生きる場合もあるでしょう。でも日々の生き方が整っていないと、いわゆる経年美化する生活はできないんです。ケアというのは掃除だけではなくて、たとえばテーブルに茶碗を置くと輪染みがつくから、コースターを使うか、クロスを敷くか、自分で選択することです。コースター一つとっても、厚手にするかラタンにするか、麻のような薄いものにするかで全然違う。いずれにせよ、ケアすることが最終的に重要です。

もう一つ単純なことを言うと、「四隅にものを置かない」ことが、シンプルに生きる基本的な秘訣です。人間って習慣的に、コーナーから置いていきたいでしょう。カバンがあれば空いている角に置く。角は強い場所なんです。でも部屋の中で三つの平面が合わさる部分が見えると、空間全体がシンプルになります。家具をコーナーに合わせて置くのは、本来最悪です。ベッドも壁につけず、真ん中に置く。そうするとすごくきれいに寝られます。ワンルームでもベッドを中心にどんと置けば、ビジネスホテルのようにはなりません。それか布団で寝る。布団はいいですよ。真っ白な部屋に白いリネンを合わせれば、どんなベッドよりも清潔で美しいと思う。それも真ん中に敷いてください。僕はもちろん、部屋の四隅には何も置いていません。

床もそうです。部屋の中にラグがあると「だらしなくしていい場所」ができてしまう。その上ではどんな暮らしをしてもよくなる。確かに何も敷かなければ床に傷はつきます。でもこんなに良い床材なら、ラグやカーペットは敷きたくないでしょう。この床を見せたいと思うはずです。そこに相性のよい家具を考える楽しみもある。ここには「何もないけれど全部ある」みたいな贅沢さがあります。そういう姿を、どこかのメーカーが堂々と見せていかないといけない。ミニマルでリッチというのがどういうことなのかを、自覚していけると思います。

Text|Mai Tsunoo
Photo|Masaki Ogawa

Naoto Fukasawa

Product Designer

1956年、山梨県生まれ。デザイナーの個性を主張するのではなく、生活者の視点にたって人の想いを可視化する静かでありながら力強いデザインに定評がある。これまで数多くの世界を代表するブランドや、日本国内のリーディングカンパニーのデザインを手がけている。世界で最も影響力のあるデザイナーの一人とされている。日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで、手がけるデザインの領域は幅広く多岐に渡る。自らのアトリエも自らデザインしている。イサム・ノグチ賞、Collab Design Excellence Awardsなど受賞歴多数。ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を持つ。2006年、Jasper Morrisonと共に「SuperNormal」設立。2022年、デザインと科学の繋がりの探究に取り組むことを目的に一般財団法人THE DESIGN SCIENCE FOUNDATIONを創設。LOEWEクラフトプライズ審査委員。日本民藝館館長。多摩美術大学副学長。