vol.01
JOURNAL
vol.01
DIRECTOR
INTERVIEW
NAOTO FUKASAWA

木という、人が人らしく
生きるための素材を、
暮らしに取り戻すために。

木という、人が人らしく
生きるための素材を、
暮らしに取り戻すために。

WOの建材を通じて、
ウッドワンの森や木材と深く関わってきた深澤直人さん。
深澤さんが考える木材という存在。
そしてWOの床材へのこだわりと、その背景にある経験を伺いました。

木とは、人間が自然からいただいた最も使いやすい材料だと思います。 ところが技術が進んだ結果、廃材を寄木にしたり接着したり、あるいは 見せかけのフェイクの「木目調素材」が増えてきました。

「木に憧れているのに本物を持っていない」状況が、どんどん広がっている。 そこには、人間の根源的な問題がある気がしています。 本質的には木に憧れているのに、木らしいもの、木っぽいものに囲まれて生きているのは、 少し悲しいことです。むしろその悲しみにすら気づかず、 平野啓一郎さんの言葉を借りれば「積極的無関心」な状態になっているのかもしれません。 見たいものも、見たくないものも知っているから、そうなってしまう。 「本物の木」を探すのが難しい時代です。でも、ここには本物がある。 だからやろうと思いました。

ウッドワンという企業名は、ずいぶん前から知っていました。 昔からマンションを改装する趣味があり、30年ほど前に板の床材を購入したのがきっかけです。 マンションなのでクッションフロアが必要でしたが、きれいなものがなかなか見つからないなかで、 唯一すごく良いものがあった。当時の記憶が強く残っています。

これまでも建材を監修する仕事はありましたが、自分たちで探して引くのは初めてです。 新しい提案が生まれる背景には、ウッドワンが持つ「森」という資産があります。 大きな土台の上に成り立つプロジェクトだからこそ、やる気が湧きました。

ウッドワンはニュージーランドに、木を育てるための大きな敷地を持っています。 イメージ的には木の成長段階にあわせて土地を4つに分け、使っては植えることを繰り返すサステナブルなサイクルを生み出している。 その姿は伊勢神宮の式年遷宮にも似ていますよね。 木の節がなるべく出ないように枝を払って、まるで槇の面割を見せるように森を育てている。

木を育てるということは、森を整備することでもあります。 日常生活に使う木材を育てる行為と、環境保全のために木を残すことは、ある意味でイコールなんです。 木がない国で生きるのは苦しい。戦争が起きれば木は燃料にされてしまいますし、東京の森林も第二次世界大戦で大きく減りました。 でも近年はどんどん増えています。明治神宮も荒涼としていたはずが、今では100年の森になっています。

プロジェクトが始まって一番感動したのは、工場に届いた巨大な無垢材を見たときです。 太い木が育つには数十年という時間がかかる。それを切って使うわけですから、木の思いを考えてしまう。 「これを切るか?」と思うほどの贅沢さが、このプロジェクトにはありました。 そこで、このニュージーランドパイン材で取れる最大幅である300mmのフローリングをつくることにしました。 普通は大きくても250mmほどです。ほとんどの人が歩いた経験のない幅でしょう。 同時に、繊細な浮造り(うづくり)も施しました。 年輪をどこまで残すか、その微妙なところを探った。 平らにしすぎると良さがなくなり、プリントのようにも見えてしまう。 自然な凹凸を残しつつ、使いやすい質感にしました。 木材は色も変化するので、なるべく白さが残るイメージで進めました。 パイン材は徐々に黄色くなりますが、人はどうしても黄変を劣化と感じてしまう。 でも長い時間をかけて変化する「経年変化」という考え方もあります。 それは一日にしてならずです。傷もつくし、変色もする。それは時間の蓄積です。 もし改めてきれいにしたければ、メンテナンスすればリフレッシュする。それもまたすごいことですよね。

日本の住居でフローリングが敷かれる前は、カーペットがあり、その前には畳がありました。 木を部材として用いるのは廊下が主でした。神社仏閣では幅の広い厚い木が使われています。 防犯のための鶯張りで、歩くとキュッキュッと音が鳴る仕掛けもありました。音もまた木の機能です。 歩いたときの音や揺れる感じ。木は接触感の多い素材と言えます。 そういうものに触れながら育った人間と、フェイクの木材に囲まれてきた人の感性は、やはり異なると思います。

木は、生きるための道具をつくるのに最適な材料です。住居だけでなく、それをつくる道具も、食べるための道具も、すべて木材が必要です。 人は木がないと生きられません。本物の木がある暮らしの方が良いということは、誰もが知っているでしょう。 そういう状況に戻すことが、人間が本質的に生きるために、今もっとも必要なことだと思っています。

TEXT | Mai Tsunoo
PHOTO | MASAKI OGAWA

NAOTO FUKASAWA

PRODUCT DESIGNER

1956年、山梨県生まれ。デザイナーの創性を主張するのではなく、 生活者の視点に立って人の思いを可視化する静かでありながら力強いデザインに定評がある。

これまで数多くの世界を代表するブランドや、日本国内のリーディングカンパニーのデザインを手がけている。 世界で最も影響力のあるデザイナーの一人と言われている。 日用品や電子機器製品からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで、手がけるデザインの領域は幅広く多岐に渡る。 自らのアトリエも自らデザインしている。 イサム・ノグチ賞、Collab Design Excellence Awardsなど受賞歴多数。 ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を持つ。 2006年、Jasper Morrisonと共に「SuperNormal」設立。 2022年、デザインと科学の繋がりの研究に取り組むことを目的に一般財団法人THE DESIGN SCIENCE FOUNDATIONを創設。 LOEWEクラフトプライズ審査委員、日本民藝館館長、多摩美術大学副学長。