INSPIRATIONS
CASE.01
MMA Inc.
Momoko Kudo
私たちはMMA Inc.という一級建築士事務所です。建築や店舗設計のほか美術館の空間構成からプロダクトデザインまで、さまざまなスケールのものを手掛けています。近年で一番大きな建築は、去年発表したサントリーさんの白州蒸溜所のレストランです。
事務所を立ち上げて今年で10期目ですが、この間ずっと「長く使ってもらうために素材をどう使うか」を大切にしてきました。それは素材の「重量と質量」を上げて、本物の素材を扱うということです。重いものは重く、表情は「なるべく毛深いもの」を。自然素材って荒々しいところが良いんです。シートは整っていますが、軽くなりますよね。スチール風、木目風の素材と、本物の素材の違いは、密度や質量だと思っています。
人間は五感が優れているので、フェイクのシートと本物の木材の違いは熱の伝わり方や触感、柔らかさですぐにわかります。それから、経年変化にも差が出ますよね。人間が触ることで、ツヤが出ていきます。木を使うならば、木らしいものを使いたいです。
素材が好きなので、建材はいろいろとストックしています。日本には古くから使われている素材も多いので、趣味的に各地に赴いてリサーチしています。建材の歴史は面白く、高度成長期にどのように使われてきたかなども調べています。日本は明治以降に「建築」という概念ができて、それ以前は「造家学」と呼ばれていましたが、その時代にヨーロッパから入ってきた建材も多いんですね。それらを日本風にアレンジしていった歴史があるので、自然素材だけでなく人工素材も好きです。
今回はWOの木製の床材を使った新しい建築空間を提案していますが、木は人間にとって一番身近で、加工しやすい素材だと思っています。私は木を使うならば、なるべくコントロールしたくありません。丸太は割ってみるまで、どんな表情かわかりません。木目の良し悪しを人間の都合で判断するのではなく、良い方向にいかせるようにデザインに落とし込みたいです。
WOの建材はとてもきれいに整ったものなので、それ以外の部分は荒めに作りたいと思い「小屋」を提案しています。3mという長さの床材をどう表現するか考えたとき、一般的なインテリアだとその長さや特徴が伝わりにくいと感じました。建築基準法上、用途地域によっては10平米以内であれば確認申請なしで建てられるので、小さい面積のなかでWOの素材を最大限使い切る提案をしています。
自然素材に囲まれながら、自然のいい景色を見る場所を目指しています。ただ泊まるための部屋ではなく、刻々と変わる景色に自分の時間を置く建物です。窓の外の木々の動きや、朝の光、夕暮れの影など、刻々と変化する二度と同じ景色がない瞬間を感じるための小屋、をコンセプトにしています。その土地の材料を使うことが建築の条件で、生き物の気配があり、日の動きがある場所を想定しています。今回は寒冷地を想定して、内部には暖炉を設置。床から天井までぐるっとWOの床材で囲んで、同じ素材で作った細いテーブルが一本あります。
屋根材部分は手織りの銅板で考えています。銅板の色が経年変化していくので、金物素材のなかでも一番自然になじみます。基本的に、軸は木パネルで効率よく作ることを考えて設計していて、土の左官が下のボリュームを覆い、地面から土が続いているデザインにしています。だから外観から見える素材は金物材と土、それから窓ガラスです。腰高のものはクリアの窓ですが、大きい方は型板ガラスといって、柄が入っている日本独特のガラスを四箇所にはめています。
パンデミックで感じたのは、都市の脆弱性です。あのようなことが起きて一次産業と分断されると、都市部は何もできないと感じました。自分たちで食べ物を作ることを積極的にやってこなかったことも反省し、自分が食べるものを責任持って選ぶか、あるいは自分自身で作るということが、今後の幸福感、豊かさにつながると今は考えています。
そこにもつながるのですが、現在は「既製品を一つも使わずに建築を作る」ことを実験的にしようとしています。基礎と構造は大工さんに頼みますが、水道の蛇口まで作ろうとしています。大工さんや専門職の方がいなかったとしても、素人が参加できる建築を作ります。自分たちで組み立てられる構造を考えて、金物を曲げて部品を作る。「食べ物から家まで作る」場所を作りたいと思っています。
かといってこれは「原始的に戻る」とは違います。最新の工具や構造を使って、自分たちで作るということです。作る過程を知ることで、修理もできるようになる。建築を身近に感じ、長く使ってもらえるのではないでしょうか。これは、選択肢を持つということです。これからのものづくりへの関わり方について考えたいですし、周りにも伝えていきたいと思っています。
Text|Mai Tsunoo
Photo|Masaaki Inoue
東京生まれ。幼少期をスイスで過ごす。多摩美術大学環境デザイン学科卒、組織設計勤務のち工学院大学藤森照信研究室修士課程修了。16年に MMA Inc.を 設立。建築設計のほか、インテリアデザイン、展覧会の会場構成も手がけている。2020-2022年多摩美術大学非常勤講師。2024-金沢美術工芸大学非常勤講師。
https://m-m-architecture.com/